学会報告お題: GID性同一性障害学会第10回研究大会
日時: 2008年3月15日(土)〜16日(日)
場所: 高槻現代劇場 中ホール
参加者: 川越サークル 2名 および 樋口卓子(記)
一般演題�� 3月15日(土) 16:00-16:50
1. MTFのボイスセラピーにおける成功症例の型の分類(櫻庭京子 さくらそう学園
筆者らはMTFのボイスセラピーを行っており、その進捗状況や結果を第三者による聴取実験によって確認している。
ボイスセラピーの成功は、本人の必要度、生活環境、社会的環境、音楽的才能や喉頭の形など多様な要因が影響すると考えられる。
聴取実験によって女声率の判定が高い「女声」も、いくつかのパターンによって分類可能と考える。
今回の発表では、�儀�(f0を低めに抑えた型)、�況�(徐々に高くしていった型)、�祁�(いったん高くしてから低く下げた型)、�厳�(話し方を変えた型)の4つの型に分類し、セラピー前、途中、後の音声の比較検討を行った。
・f0→高 ある程度高くなるほど女声としての判定率は高くなるが、ある程度を超えると頭打ちになる。
・それ以上は話し方が大きなファクターとなる。
・女声と判定された場合年齢↑ 男声と判定された場合年齢↓と受けとられる傾向がある。
・フルタイム パートタイムの文化の違いがあるように思われる。
2. 岡山大学における手術を中心とした性同一性障害治療の現状と問題点(杉山成史
岡山大学形成外科
特例法の成立以降、倫理委員会が撤廃され、当院における性同一性障害の治療の流れはスムーズになってきている。
しかし、性同一性障害治療はチーム医療であるため、複数科の間の調整が必要である。
外来日は各担当医によって異なるため、同日に複数科を受診できる場合とできない場合とがある。
遠方から受信される方には大きな負担となっている。
当初に比べ手術枠は増加しているものの、待機患者数にまったく追いついてない。
数年後に病棟の新築により手術室が増える予定のため、手術枠も増えることが見込まれる。
現在手術室はフル稼働の状況であり、それまでは現状維持が限界である。
当院で判定委員会を通過し、多院で手術を行うといった対策も考慮の余地がある。
病棟は形成外科または泌尿器科の病棟を使用している。
個室の必要性が高いため、性同一性障害のための病床を確保することが望ましいと考えられるが、現状ではできていない。
重篤な合併症の場合には保険診療に切り替えるなどの対応を考慮している。
現在、各担当医師・看護師・事務員によるジェンダーコアチームを発足させ、突発的な問題に迅速な対応がとれる体制を整えているところである。
3. MTFGID症例に対する甲状軟骨形成術4型の術中音声分析 (中村一博 東京医科大学八王子医療センター耳鼻咽喉科頭頚部外科
性同一性障害の治療において、適合性として社会生活をしていくためのコミュニケーションツールとしての「声」の治療は重要な位置を占める。
われわれはMTFGID症例に対し、話声位(SFF)の周波数を上昇させる手術:甲状軟骨形成術4型を施行している。
4型は声帯長を伸ばしSFFを上昇させる術式であるが、できるだけ患者の希望のイメージに沿ったピッチに近づけることが重要である。
今回われわれは4型の術中に音声分析ソフトVoice Analyzerを用いSFFをリアルタイムに音声分析しながら、手術を施行した。
症例は2006年2月〜2006年6月に当院で4型を施行したMTFGIDの3例である。
術前の外来受診時にVoice Analyzerにて最低音から最高音までの音域を測定し、その中で患者が理想希望とするSFFについて術前に診断した。
4型手術は局所麻酔下に施行した。
術中にリアルタイムにSFFを測定し4型の牽引糸の張力を調節した。
術後のSFFは全例上昇した。
術後は100〜50Hz程度低下するので正確な予測は難しい。
来年から国際医療福祉大学見た病院で診療を行う。
費用については新しい病院と検討中である。
手術はボイスセラピーの前でも後でもよい。
4. GIDホルモン療法におけるグローミンクリーム・バストミンクリームの使用経験
(杉山正子 すぎやまレディスクリニック
精神科医によりホルモン療法の適応と診断されたGID患者21名(FTM12名 MTF9名)に対し、経皮吸収テストステロン(グローミンクリーム)と経皮吸収エストラジオール(バストミンクリーム)による治療を試みた。
使用量はクリーム3cmを1日3回大陰唇または陰嚢、大腿部、下腹部に塗布し、効果をみて増減した。
使用開始から3ヶ月毎に効果と副作用をチェックし、クリーム塗布前および1時間後のホルモンレベル(testosterone, free testosterone, estoradiol)を測定した。
グローミンクリーム使用例では全例ホルモンレベルにおいて望ましい変化が見られた。
12例中9例で使用開始3ヶ月までに月経停止がみられ、自覚症状でも好ましい変化が得られた。
明らかな副作用は認めなかった。
バストミンクリーム使用例のうち、9例中7例で勃起・夢精の消失がみられ、乳房の張りや精神的な安定があり満足な結果が得られた。
1例はホルモンレベルの変化はみられたが自覚症状の改善が無く、1例はホルモンレベル・自覚症状とも変化が無く無効であった。
使用量は症例ごとに検討する必要があり、グローミンクリームでは減少 バストミンクリームでは増量が必要な症例が見られた。
5. FTMは喫煙率が高い？ （新井富士美 岡山大学病院産科婦人科
[目的] 婦人科でGID外来を担当する中で、FTMは喫煙率が高いと感じ、検証することにした。
[方法] 岡山大学病院婦人科のジェンダークリニックに通院中のFTMおよびMTFの初診時の問診よりデータを抽出した。
産科婦人科の一般初診患者を女性のコントロールとした。
[結果] 2007年8月〜12月に受診したGID74例(FTM44名 MTF30名)を対象に検討した。
FTMの喫煙率は依然として高いことが判明した。
ホルモン治療中は血栓リスクも高いため、禁煙を勧められているはずだが、FTMでは喫煙率が高く、今後、各治療施設や本学会での禁煙指導の推進を望みたい。
シンポジウム�� 3月15日(土) 18:00-19:00
埼玉医科大における性同一性障害治療の現況 (塚田 攻 埼玉医科大学神経精神科・心療内科
平成19年5月より事実上SRSを中断しているが、基本的姿勢としては継続したい。
ホルモン療法の適用判定、精神科領域の診療は行っている。
平成20年4月より乳房切除を再開する予定である。
1. 乳腺皮下脂肪の切除(7日間入院 69万円)
2. 乳輪乳頭縮小(2ヵ月後 外来で10万円)
またこれまで埼玉医科大でSRSを受けた患者に対しSRSに関する満足度結果調査を行う。
その結果により今後のあり方を検討する。
赤心堂産婦人科を医療チームの一員に迎えFTMの子宮卵巣摘除手術を判定実施する。
札幌医科大学附属病院における性同一性障害診療の現況 (北海道文教大学 池田官司
札幌医科大学附属病院では2003年12月より性同一性障害GIDに対して性別適合手術までを含めた包括的な診療が行われている。
GIDの診断と治療を求めて受診した者は、まず神経精神科での精神医学的評価を受ける。
その後泌尿器科または産婦人科にて身体的性別の判定が行われる。
診断に必要な情報が得られた後にGIDクリニック会議で診断が検討される。
GIDクリニック会議は、泌尿器科、産婦人科、第一外科、形成外科、神経精神科でGIDの診療に当たっている医師から構成されている。
精神科領域の治療を経た後、身体的治療への移行を希望する者はそれぞれの治療を施行する診療科を受診の後、GIDクリニック会議で治療適応が検討される。
札幌医科大附属病院GID委員会はGIDクリニックからの治療申請を検討し、その適否を判断する。
GID委員会は関係各科診療科長、看護部長、病院事務部門、法律の専門家から構成されている。
GID委員会での治療承認後はそれぞれの診療科において身体的治療が施行される。
精神科領域の治療は診療の過程をとおして継続される。
GIDクリニック開設以来2007年末までまでの総受診者数は280名(FTM197名 MTF83名)であった。
泌尿器科または産婦人科での身体的性別の判定を経てGIDクリニックで確定診断に至ったものは161名(FTM120名 MTF41名)であった。
精神科領域の治療の後に身体的治療への移行を希望し、GID委員会によって治療が承認されたものは、
FTMホルモン療法70名
MTFホルモン療法24名
FTMの乳房切除36名
FTMSRS12名
MTFSRS6名
であった。
長崎における性同一性障害の治療の現状 (中根秀之
長崎大学医学部歯学部附属病院 精神神経科では担当医4名 臨床心理士1名の体制で診療を行っている。
精神神経科における平成14年1月より平成19年12月31日の6年間の外来初診者をもとにジェンダークリニックの実績を報告する。
ジェンダークリニックを初診した症例数の合計は51例であり、うち47例は、性同一性障害と診断されたが、残りの4例については性別違和症候群と診断された。
1例が小児の性同一性障害であった。
85%がガイドラインに沿った治療を行っており、15%がガイドライン逸脱であった。
全症例の43%に随伴する精神症状として、抑うつ、不安、パニック、強迫症状、発達障害などを認めた。
希望する治療については、87%が性別適合手術を希望し、11%がホルモン治療もしくは乳房切除術まで、2%が身体的治療は希望しないであった。
岡山からの報告 (松本洋輔 岡山大学病院精神科神経科
岡山大学ジェンダークリニックは1996年より精神科神経科における診療を開始し、2001年に最初の性別適合手術を実施している。
2008年2月20日現在、当クリニックを性別違和感を主訴に受診し性同一性障害が疑われた方は917名(MTF345名 FTM572名)である。
20代FTMが突出している。
これまでの実績は
FTM乳房切除102例
FTMSRS1期 59例
FTMSRS2期 17例
MTFSRS 15例
MTF除睾 5例
である。
初診からSRSまで4〜5年かかっている。
ジェンダークリニックの診療には、精神科医、婦人科医、泌尿器科医、形成外科医がチームでかかわっており、身体的治療の適応を決める適応判定会議には、学識経験者として性同一性障害に関心を持つ臨床心理士と当大学保健学科の准教授である助産師が参加している。
診療業務を中心となって行うコアメンバー会議が結成され、事務方や看護との連絡会議も定期的に行われるようになっている。
手術費の未払いが問題となってきたため、本年より手術・入院費のデポジット制(前金制)を開始した。
健康保険適用をアピールしている。
人員と手術室の確保に限界があり、手術件数の大幅な増加は困難である。
精神科神経科では外来担当医が往時の5・6名から3名へと半減し、婦人科、泌尿器科では担当医の後継者確保が問題となっている。
遠方の患者さんが手術後のトラブルを抱えた場合の対応が難しい。
大阪におけるGID医療の状況 (織田裕行 関西医科大学精神神経科
初診者数は360名である。
初診後は当事者の治療状況を考慮し、診断およびホルモン療法や手術療法の適応判定と治療に関して比較的柔軟に対応しているが、初診者数の増大に対応しきれず、初診希望から受信まで半年以上かかっている。
[うわさ話]
関西医科大ではすぐにホルモン療法が可能？
→他で適応判定を受けていれば比較的早期に対応可能である。
浦安ジェンダークリニック委員会の現状報告 (阿部輝夫 あべメンタルクリニック
当委員会は2007年3月に、精神科2名・婦人科3名・泌尿器科3名・有識者1名の構成員で発足した。
月1回の会議を行い、身体的治療に移行することの妥当性と正当性を審議する個別症例検討を中心に、ホルモン療法や血栓症などGID関連の勉強会を組み入れながら1年が経過した。
1996年3月15日〜の統計では
性別変更 FTM109名 MTF175名(2007年末までの性別変更許可は840名)
1st 167名 2nd116名
SRSの内訳を見ると国内103名 タイ167名 その他13名で タイでのSRS件数が突出している。
国内SRS施設の減少を考えるとやむをえないことであるが、ジェンダークリニック委員会がSRSを判定し、紹介状を書き執刀医からのインフォームドデシジョンを受けるなど、一定のルール作りが必要である。
またガイドラインも海外SRSの増加に見合った改訂が必要である。
一般演題��3月16日(日) 9:40-10:30
15. 当院における包括的医療への取り組み(第2報) (山口悟 ナグモクリニック
当院では20年来、MTF、FTMの患者にそれぞれ豊胸手術、乳房切除術を行ってきた。
精神科医の診断後、医療グループによる承認のみで、倫理委員会の承認は必要としないで身体的治療を行えるというガイドライン第3版への改訂に伴い、当院は現行のガイドラインに準拠した包括的医療への移行を始めた。
乳房切除は国内で対応可能と考える。
SRSは受け皿不足で海外に頼らざるを得ないと考える。
精神科(ハリマクリニック)と連携し、判定会議を平成19年2月より11回開催した。
・乳房切除35例
・SRS35例
平成18年10月よりホルモン療法を開始した。
平成19年6月よりNebido(徐放性男性ホルモン剤)を開始した。
MTF豊胸は10例/年の実績がある。
平成19年10月よりSRSを開始した。
病院1泊 FTMホテル5泊 MTFホテル2泊5泊+2泊5泊 (サングワン式のため)で行っている。
(ホテルと連携しホテルではカテーテル入れっぱなし)
FTMの執刀は順天堂大学 婦人科 竹田先生 MTFの執刀はナグモ山口先生が行っている。
昨年より海外SRSのフォローも開始した。
ミニセミナー 3月16日(日) 13:00-14:00
性同一性障害に対する外科的治療の現状 (山口悟 ナグモクリニック東京
日本における性同一性障害の患者を取り巻く医療環境はこの10年で著しく発展を遂げた。
しかしながら、依然として医療の対象としては発展の余地をかなり残している。
とくに外科的治療の技術の立ち遅れ、治療性sつの不足ははなはだしい。
2008年春時点での日本のGID医療における特に外科的治療分野の現状を報告する。
FTMの悩み 身長が低い(ただしパス度を下げるものではない)
MTFの悩み 身長が高い 顔が大きい 乳頭乳輪が小さい
外科的アプローチ
・顔
・頚部
・胸部
・外陰部
・顔
一般の美容クリニックで対応可能。
・胸部
一般の美容クリニックで対応可能。
大学病院でも行っている。
比較的メジャーな分野である。
乳房切除では大きさ、年齢(組織が硬くなる)、ナベシャツ使用歴などを考慮しなければならない。
合併症としては乳頭乳輪壊死(乳頭乳輪は乳腺から血行をうけているので壊死が起こりやすい)、血腫、変形、瘢痕などがある。
MTF豊胸ではアンダーバストが大きいこと、組織が硬いことが問題となる。
また希望サイズが大きい傾向がある。
胸筋下スムース/胸筋下テクスチャードが望ましい。
脂肪注入法は生着率が20%程度しかなく石灰化が問題である。
・外陰部(FTM)
内摘→尿道延長→陰茎形成が行われるが、尿道延長については内摘のみで性別変更が可能となったことから 陰茎形成を行うのでなければその意味合いが薄くなった。
また陰茎形成は日本では大学病院で無ければ対応が難しい。
ナグモクリニック判定会議→赤心クリニック産婦人科 賛育会病院など
合併症としては皮弁壊死、尿道婁孔、狭窄、皮弁採取部位の瘢痕などがある。
・外陰部(MTF)
ナグモクリニックを含めて民間で行われている。
陰茎皮膚翻転法 → 般的な方法で狭窄が起こりやすく汚れやすいので適切なメンテナンスが必要である。
大腸法 → 大掛かりな方法であるがメンテナンスは楽で 一般に言われるほど汚れない。
合併症としては直腸膣婁、膀胱膣婁、狭窄などがある。
その他の外科的手術としては
・肩幅を変える
・(声の)ピッチを変える
・お尻(臀部)のボリュームアップ
といったものがある。
展望
(FTMについて)男性の戸籍になった後、陰茎形成術を保健適用でできないか。
質疑応答
・S字結腸法は便秘や下痢にならないか？
度を超すほどの問題にはならない。
・ホルモン療法では乳がん検査はしたほうがよいか？
検診を勧める。
FTMにも勧める。(乳房切除しても乳腺は一部残るため)
以上
 第10回GID学会 研究大会 |
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