
お題 第2回海外招待講演「私のMTF手術とタイのSRS事情」
日時 12月22日(土) 13:00 〜16:30
場所 東京ウィメンズプラザホール
出席者
川越サークル 4名 + 樋口(記)
講師
Dr.サングアン・クナポーン タイPIH病院
GID患者支援センター 山口悟先生
本講演の趣旨
GID患者を取り巻く状況は
・ スタフ不足
・ 治療施設不足
・ 情報不足
である。
本講演はGID患者に海外SRS事情の情報を提供することを目的とする。
Dr.サングアン・クナポーンの紹介
1960年生まれ
タイ チュラロンコン大学卒業後MTF手術に携わる。
遅延陰嚢皮膚移植による膣形成術と亀頭冠包皮を使った陰核形成術を行っている。
1. Dr.サングアン・クナポーンの手術への取り組みと実績
手術のチャンスは一生に一度しかない。
皮膚を1ミリたりとも無駄にすることなく適切な手術を行わなければならない。(たとえ手術時間が長くかかったとしても)
700例のうち500例は遅延陰嚢皮膚移植による膣形成術と亀頭冠包皮を使った陰核形成術により行われた。
日本人は146名(独身111 結婚20 離婚15)
手術にふさわしい患者の外科医のための指針としては以下を考慮する。
・ ハリーベンジャミン協会の基準
・ ホルモン療法
・ 精神鑑定
・ リアルライフテスト
・ 専門知識を持つ者の意見または外科医の個人的な見解(イスラム インド パキスタンなどの患者のために)
患者の職業は非常に多様である。
2. 段階的に見る手術技法
a. 準備
診断と手術の認可をおこなう。
2週間前からホルモン療法 アスピリンを中断する。
禁煙する。
前日に入院する。
胸部レントゲン 心電図 血液検査をおこなう。
18時間前に腸洗浄をおこなう。
前夜に剃毛する。
ヘパリンや抗生物質の事前投与を行わない。
輸血準備は通常おこなわない。
b. 麻酔
硬膜外麻酔とガス麻酔を併用することでガスを減らし麻酔からの回復を早める。
手術中はかかとを支持し脹脛を圧迫しないようにする。(コンパートメント症候群の予防)
c. マーキング
手術のためのマーキングを行う。
手術前の消毒→フィルムを貼る(感染防止)
700例のうち1例も感染例はありません。
d. 陰茎皮弁の作成と膣切開
陰茎皮弁または亀頭冠包皮への十分な血液循環を確保する。
十分な深さと幅の膣円蓋を作成する。
婁孔を避けるため直腸診で正しい位置を確認しながら切開する。
(700例中1例直腸損傷 1例尿道損傷→術中に修復した)
e. 精巣の摘除
f. 尿道形成
陰茎海綿体から尿道球海綿体筋を解放する。
g. 陰核形成 陰唇形成
陰茎皮弁を両側で深部下層組織と縫い合わせる。
陰嚢皮膚は2週間血液組織バンクに保管できる。
h. 術後
36〜48時間は完全な床上安静とする。
出血が無ければその後VACカテーテルと導尿カテーテルをつけたまま病院内を自由に歩ける。
(VACカテーテルとは膣腔内の浸出液を吸引することで肉芽組織の再生を促すカテーテル)
i. 陰嚢皮膚移植
陰嚢皮膚の毛包 皮脂腺を除去する。
筒状になった陰嚢皮膚を膣円蓋内部に貼る。
3. ダイレーション
パッキングをはずした直後からダイレーションを開始する。(1回30〜60分 6ヶ月間は1日3回)
最初の2ヶ月間は硬いダイレータを使ったほうがよい。
4. 合併症について
症例1
尿道口からの出血 術後24〜48時間の間に起こるのが一般的
→縫合結紮による修正
症例2
陰茎皮膚の部分的壊死
→陰嚢皮膚移植または全層植皮術による修正
症例3
尿道口の狭窄
→狭窄部を開放し側の横転皮弁を使い修正する。
症例4
膣狭窄
→側膣部の皮膚を全層移植またはS状結腸をつかった手術
5. 16年前とどこが違うか
陰茎 陰嚢 皮弁による膣再建の代わりに遅延陰嚢皮膚移植術およびVACシステムを使うことで生着率が高くなった。
膣腔の内張りのためすべての陰嚢皮膚を無駄なく使う。
尿道周りの球海綿体を十分除去する。
2期的に行うことで手術時間は長くなったがよりよい手術が行えるようになった。
6. FTM手術(参考) ヤンヒー病院 スキット先生
FTMの手術は難しい。
前腕皮弁を用いる。
・ 子宮卵巣摘出 乳房切除
・ 前腕への尿道形成(右利きの人は左手に尿道カテーテルに皮膚を巻いたものを前腕に埋め込む)
・ 膣閉鎖 尿道延長
・ 睾丸はシリコンボールを入れる。
・ 神経を吻合することで感覚が得られる。
・ 最初はスペーサーと呼ばれるインプラントを入れ後日別のインプラントに入れ替える
7. 質疑応答
Q. コンパートメント症候群について(岡山大学 精神科 松本先生)
砕石位で手術をすると筋肉の圧迫によるコンパートメント症候群が起きる。
岡山大学では10例中2例
どのような対策をとっているか?
入院期間はどのくらいか?
A.
足のポジション ひざの裏に体重がかからないようにする。
ヘパリンの使用。
一時的にもとの普通の姿勢に戻す。
入院期間は3週間(2週間病院 + ホテル1週間)
Q. ダイレーションが痛い(MTF PIH病院で手術後7年目)
1週間に1回 1時間程度
最大で深さ10.5cm 3.3cm径まで
ダイレーションが痛い これでよいのか?
A.
個人差が大きい。
6ヶ月経過すればふつうはそれでもうダイレーションをおこなわなくてよい。
それがきついようであれば拘縮が起きている可能性がある。
必要があれば2回目の手術を考える。
あるいはプレマリンクリームを使ってみる。
Q. おりものがある(MTF PIH病院で手術後3年目)
たまに体調を崩したり風邪を引いたときに茶褐色〜透明のありものがある。
産婦人科に行くと膣内に大腸菌 サルモネラ菌があると言われクロマイ膣錠を処方された。
クロマイ膣錠で症状は軽快した。
手術でつくった膣でおりものがあるのはふつうか?
おりものを防ぐにはどうしたらよいか?
A.
膣内部に皮膚に覆われていない露出した肉芽組織があることが考えられる。
または尿道感染があり尿道からの分泌物があるかもしれない。
Q. 陰茎の皮膚→陰唇形成 陰嚢皮膚→膣形成とのことですが陰茎皮膚も膣形成に使うのか?
陰嚢の皮膚を植皮したときに膣内の感覚はどうなるのか?
A.
陰嚢皮膚を外陰部に使うと皺が多いので見栄えがよくないのでそうしている。
膣周囲の組織が圧迫されることで感じる感覚とクリトリスの感覚が大切で、陰嚢皮膚の感覚がメインとなるとは考えていない。
Q. MTFとしてのSRS後 男性に戻りたい場合はどのような対応があるのか?
A.
一方通行の手術なので何もできない。
700人のうち2人にそのようなことがあったことは許容範囲であると考えている。
Q. タイで手術後(P)膣内に毛が生えた。
毛根の処理はどうしているのか?
A.
PIH病院でもあり得る。
手術前に手術野の脱毛を済ませておくことが望ましい。
所感
全体として手術の術式そのものの内容に焦点をあてた内容であり好感がもてた。
遅延陰嚢皮膚移植については以前から聞いていたものの半信半疑であったが、実際にそのような術式が可能でありまたよい成果を挙げていることを知ることができた。
高松先生からMTF のSRSでは前立腺は摘除しませんとの説明があったが、前立腺の存在は性感を与えるので、仮に前立腺の摘除が可能でも、摘除を希望する当事者がどの程度いるのかは疑問に感じた。
このような有意義な講演会を開催していただいたGID患者支援センターと山口悟先生に感謝いたします。
以上
![]() Puhket International HospitalにおけるSRS |